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 突然ですが、「里海資本論―日本社会は共生の原理で動く」(片山恭介・NHK里海取材班/角川新書)の書評をブッ込みます。
 これは、以前ここで紹介させていただいた「里山資本主義」の続編と言うべきものです。里山の概念とは、人間の暮らしの営みが多年にわたり続くことで、逆に自然の循環・再生が保たれ、生物多様性も増すような樹林地・農用地を指します。本書の里海の概念も、例えば瀬戸内海の内湾では養殖用のカキ筏を復興し、また海底にアマモという海藻の種を蒔いて藻場を漁師たちが復活させると、高度成長期に赤潮が頻発していた海域でも、魚介の棲息が豊かになり海が生き返ったことが紹介されています。
 カキは水質浄化能力が高く、カキ筏そのものも水棲生物の産卵場所になり、またアマモにも稚魚を天敵から守る効果があります。このアマモという海藻は、石風呂(サウナ)の床に敷かれると健康効果が発揮されるそうです。さらに使用済みのアマモは、畑に鋤き込めば海の栄養を大地に還す肥料となり、有機野菜の生産にも寄与します。ここに里海と里山が結びつくわけです。これは、庶民の竈の灰さえ業者がかき集めて農家に売り、肥料とすることで成り立っていた江戸期の物質循環社会・循環経済を彷彿させるものです。
 さて、瀬戸内海沿岸は元々綿花の産地であり、今治のタオルや倉敷のデニムなどに名残が見られるように綿製品の一大生産地でした。瀬戸内海のある島で、お年寄りの昔の記憶に残る綿花の白い風景を復活させようと奮闘している人は、島の産物を使った料理を次々考えて出すカフェも経営しています。また、以前都会に出ていたけどターンしてきた高齢者を、やはりターンしてきた若者が同郷人として心からの介護する施設があり、そこに食事を提供するのもそのカフェです。そして復活した綿は、かつて瀬戸内海を航行していた海賊も使ったという帆布の工場で綿布にされ、島の産物を使って草木染され、独自ブランドになろうとしています。つまり様々な産業が復活するわけです。
 このように著者は、里山と里海、そして都会を結び付け、そこを人が自由に行き来し、市場から独立した地域の独自経済圏を築くことが、暴走するマネー資本主義を克服する希望だとしています。このあたりは、食料とエネルギーを各地域の特色に合わせて自前で賄えば、やがて産業も復活して人口も増え、共同体の新生にも繋がるとするよしりん先生の考察に通じるものがあると考えています。
 しかし、これを国レベルで考えると、自前で食料・エネルギー・教育・医療・軍事力…など必需の物品やサービスを出来る限り自国で担保し、貿易を徐々に抑えていくことが必要となります。そのためにはTPPや各種自由貿易協定を拒否せねばならないため、自主外交・自主防衛、つまり自主独立が不可欠となるのであり、つまり環境や経済だけの問題ではなく、政治や軍事の話も関わってくるはずなのです。このあたりが「資本論」をタイトルに冠する著者のサヨク的思考の限界だという気もします(いいがかり・笑)。
 いずれにしても、生物としての人間の故郷に近い近代以前(江戸期)の里山・里海へ還ることは、都会に疲れた現代人が心から求めていることだという事実は間違いないでしょう。

 そこに至るまでに難問がある! na85

日時
2015-09
投稿者
na85
記事
「成立した従米安保法案のペテンを教える」小林よしのりライジング Vol.149
No.
103